さくら荘のペットな彼女3 書評 キャラよりもストーリーに価値を求める

天才と凡人との葛藤を描くシリーズその3。ましろのイギリス時代の友人リタがやってきて、イギリスにましろを連れ戻そうとするという話。

ライトノベルというものの世界には、キャラクターの個性こそが重要という風潮がここ最近はあるように思えるけれど、この作品はどうもそれから逸脱したところに魅力があるように思える。

登場人物たち、一人一人の心情が合わさってこの小説ができている。そんな感じを僕は受けた。

ましろは、空太への思いを恋として自覚していく。空太は、ましろがどうあるべきかについて自分自身の答えを探す。仁は、依然として美咲との間に壁という名の才能の差を抱きつつも自分なりの努力をしてそれを埋めようとする。美咲は、本業のアニメでなく仁への愛情を成就させるために悩み試行錯誤の毎日。リタもましろという天才に対して悩む。

そうしたピースが組み合って一つの物語ができている。そうした意味で純粋なストーリーを求める読者には喜ばれる作品だといえるのだろう。

一方、それは劇的な展開を求める層からは倦厭されるというマイナス点を生むが個人的には無視をしてかまわないと思っている。作者が納得する形で作者自身が最善と思えるストーリーを構築して欲しい。決して売り上げや読者の要望、環境などに影響をされることなく。


なかなか矛盾というものを抱えた物語でもある。だが、それは作者自身に由来する物でなく、登場人物たちが人間的な思考をしている事による物だと僕は思う。ミスをしない人はありえない、正しくはないけれど自分の我を通す、それが人間という物の一部であることは言うまでもない。

浮世離れした人間に愛着がわかないように、矛盾を含んだ存在こそが読者からは愛されるのだと思う。


今後も期待が高いシリーズである。ところで龍之介は女の子のような気がするんだけど、どうなんだろう。