「どうして,私のブログにはブックマークどころかスターも付かないんだ.ページビューも自分が回したのしか記録されない.もう20個も記事を書いたのに,ホットエントリー入りしないのはおかしい狂ってる」
あるところにそう独り言をぶつぶつと繰り返す30代の男がいました.まだまだ若いというのに,目は血走っていて,体からはまったく精力を感じ取れません.
「おかしい,おかしい.絶対におかしい」
そうぼやく,男の前にそれから3日後,突然天からもやに包まれて何かが舞い降りました.
「なんだ」
男は後ずさりをしながら,何が落ちてきたのか確認しようと目をこらします.もやの中からは,一匹の犬が現れました.
「汝は人気者になりたいか?」
「ああそうだ.この私の能力が認められない世の中なんて狂ってる.万年平で,上司にはこき使われ,後輩には抜かされる.現実がおかしいんだ.せめてこのハテナナセカイだけは俺を受け止めてくれるに違いない.おれは能力はあるんだ.それが認められない現実がおかしいんだ」
男は,犬に向かって声を張り上げました.
「そうか,現実が憎いか.だが,お前にはなにができる.文才があるわけでもなく,特別な技術があるわけでもない.お金も持ってなければ,容姿だって優れているとは言い難いだろう.じゃあ,お前は何ができるんだ」
「それは……」
男は答えに詰まりました.しかし,言葉をなんとか続けます.
「まだ,発見されいないだけだ.お前達に見る目がないんだ.おれは悪くない.おれの才能に気がつかない奴らが悪い」
「ふーむ.お前は分かっていないようじゃな.ハテナナセカイだって,現実世界だって本質は同じだ.自分で努力して磨いてアピールしなければいつまでたっても,穴から這い出せない」
男は「そんなことは分かっているが,努力はしたくない」と言いました.
「ふーむ,ならばおぬしに出来ることはただ一つだけだ」
「それは何だ」
男は聞き返します.
「炎上商法じゃ.自殺予告でもすれば,いいじゃろう.増田で拡散でもすれば,あっというまに人気者だ」
「そんなことはできない.俺が僕がそんなまねをするかするわけない……」
後半になるにつれて声のトーンが下がり,男はすっかり黙ってしまいました.
「よく考えることじゃ」
そう告げて,犬は天へと帰ってきました.
数日後,男の姿はハテナナセカイにはありませんでした.神様達の持つよく切れるナイフは,アバターすら切り裂く魔法のナイフです.それが次に向かうのはあなたかもしれません.