囮物語 感想 戯言シリーズをこの時点をもって凌駕した

囮物語 (講談社BOX)

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あらすじ
100パーセント首尾よく書かれた小説です。――西尾維新

“――嘘つき。神様の癖に”
かつて蛇に巻き憑かれた少女・千石撫子(せんごくなでこ)。阿良々木暦(あららぎこよみ)に想いを寄せつづける彼女の前に現れた、真っ白な“使者”の正体とは……?
<物語>は最終章へと、うねり、絡まり、進化する――
これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異!
かみついて、君を感じる罠の中。
囮物語 西尾維新 VOFAN 講談社

以下、ネタバレありの感想をお送りします。西井維新テイストなので読みづらいよ。

囮物語を読んだ。この突拍子もないけれどもそういえばそんな作品作るのが上手かったということを思い出させてくれる作品を作り上げた維新先生には凄いねと言いたいよ。

千石撫子は、はっきり言って影の薄い子でした。アニメにおいて花澤香菜さんボイスという素晴らしい力をもらったことで、人気者になれただけの存在。そんな彼女があまり好きではなかったし、いや嫌いだった。言葉はにごさない。彼女自身が暦視点の一人称である以上、無言大好きな彼女が言葉には出せないので被害者ずらしてるんじゃないよと言う強い印象を受けたからだ。そんな被害者と加害者の相関関係がそこにはあって、それをあらわにしたのが本作品なのだ。

さてと、偽物語西尾維新にとって、あまり乗り気ではなかったような気がしてくる。明らかに完成度が低い。見れば分かる、情緒的でストーリー展開が沈滞して、退屈。そこは時間の流れが遅いかのような空間であって、駄作としか言いようがなかった。公式の同人誌、彼的にはそんなモチベだったと今なら確信できる。

傾、花とその完成度が高い作品が続いたことでそれなりにハードルが上がるのが必然という物ではあるのだけれどそれを天元突破してくるのが彼のすごいところ。西尾維新の作品が行き当たりばったりが多いのは事実だけど、囮物語では明らかに違った。撫子の一人称は面白い。システム的にもキャラ的にも。普通の場合であればね、一人称は僕とか、私とかを使うのが慣例って物ではあるけど、今回は撫子という一人称を使用。斬新。

撫子は神原よりもおもしろい。自分のことを可愛いだけの人間と理解しながらも、それを打開しようと努力をしない。駄目人間。言い過ぎた。

そんなアンバランス、いや人間的なんだけど普通の人ではないと言う異端さが一人称で明らかになっているのだから読んでいて笑ってしまう。

だいたい、大好きな人が彼女といることを見たことがきっかけでここまで狂うのは撫子以外いないでしょう。神原も八九字も強い。戦場ヶ原も同じく。彼女だけがだんとつで弱い。だけどね、弱い人間で異端な千石撫子は魅力的なんだよ。作者的にも狂わせたくなる。

他のキャラは明らかに強すぎる。誰かに頼ることはあっても、自ら偶発的、恣意的にあそこまで狂えるのは彼女しかいない。姫ちゃんよろしく、物語のトリガーを引くのは彼女しかいなかった。青春から殺し合い、戯言ではミステリ風味から人外。

神になってしまった、撫子。ラスボスおめでとうといってあげたいけど、ゲームにおいて倒されるのが彼ら(ラスボス)の運命である以上、祝福の鐘は鳴らしてあげない。被害者であり加害者であったというのは今回、神になった時も同じ。忍野扇という存在と神様の封じ込まれた札がそこにあった不運というのは、被害者なのだからね。扇ちゃん的には、意図してやったことであるのだから不運ではなく、ウィルスを打ち込まれたようなものだ。狙われたのは不運だが、撫子の立ち位置が運命づけられた物であったのかもしれない。それならどうしょうもない。

かなわない位置にいる人に恋をするというのが、かなわない目標を設定するというのと同義であるのは語られていたけど、まさにその通り。叶えられない目標など意味がない、理想は高く持てと言うけど、その理想は死ぬ気でやれば叶えられることである必要がある。自分へのいましめといってもいい。

暦お兄ちゃんの心を撫子がゲットできるかは不可能とは言い切れないのだけど、彼女がそれを望んでいないのに叶うはずがない。忍の心はかわいさでゲットしてるんだけどね。暦の心は全人類を愛している的な意味合いだろう。大小はあり、身内偏重の代償が神の復活を生んだというのは可哀想な話ではある。

かわいいつながりで。


神様となった撫子とあららぎばすたーずは戦います。どっちが勝つのだろうか。結果は、勝ち負けだけじゃなくて引き分けもあるのでそれを期待するかと思ったら大間違い。みんな死んじゃえばいいのに、バッドエンドは嫌いじゃない。言うなれば両者敗退は痛い的な。

刀物語もバッドだよ、見る方向によっては。

輪廻の流れ的には、回り回って視点が暦に戻るか。その他話はまた次回。やんでれ神様撫子、嫌いじゃないぜ。


今回の感想をまとめる。
撫子は暦からの視点では影の薄い子であったけど、一人称にすると映える。そして、おもしろい。実際にはいなかったへびとの会話なんかテンポが良くて素晴らしい。
弱い人間であったために、物語のクライマックスへのトリガーにされた。
これで、最後への道筋ができた。壮大な叙述トリックがこの話の肝であり、プロットがしっかり練られている。
撫子ファンにとっては辛い内容かもしれないが、西尾維新ファンにとってはいつものことである。ただし、青春物の物語シリーズでやってくるとは思わなかったので意外だった。波瀾万丈のストーリーは戯言シリーズに近く、原点に戻ってきた。しかし、文章力、構成力は格段に伸びている。よって、傑作になった。