さくら荘のペットな彼女 書評

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

一言で言えば天才と凡人との間の心の葛藤を描いたものになると思う。

三人称だが、視点は主人公である神田空太で進む。

天才と凡人たる自分との差をまのあたりにしても最後には逃げることなく向かい合おうと空太が上手く記されていた。

話の展開もテンポ良く進み、なおかつこの物語のもっとも素晴らしい所は彼らの会話にあると思う。

西尾維新イズムを継承するかのような主人公とその仲間たちとの会話はどれもが洗練されていて楽しく読む事ができる。
これは、高評価を与えられる。
西尾維新のような斜め上の会話劇までは及ばないが。

そして、各ヒロインたち。ましろ、美咲はどれもが愛らしく作者の心がこもった、特徴的な少女たちになっている。

本当にましろはかわいい。抱きしめたくなっちゃう。



最後に欠点を書く。
天才としてましろと美咲の二人が出てくるわけだが、この二人の凄さを強調するがリアリティに欠ける部分が見られる。
いくら何でもあり得ないだろうと感じ、引いてしまう感があった。

僕は、具体的な説明が少なく端的な例で、登場人物たちが天才だと明記されている場合違和感はあまり感じない。
なぜなら、作者が彼らが天才である事を読者にわかるように説明するために、薄っぺらい文句を並び立てることがないからだ。
僕の場合、そのようなとき天才というものについて自分の中で想像を巡らし理解する事になる。
ああたぶん、彼らはこんな事ができるのだろうと。


一方、この作品では読者に彼女たちがどんな風に天才である事を説明するために、欲も知らない事をがんばって調べて書き連ねただけのような気がした。
作者自身がどのような人が天才であるかどうか明確に設定できていないために、明らかに論理性が欠けている。

事柄が並んでいても、そこに明確な論理がが存在しなくてはただの文字の羅列しかならない事を作者は知る必要があるように思えた。



もちろん世の中には天才が何人もいる。
だが、彼らを小説の中に書き切るには、どういう存在であるかを考え切らなくてはならないのだと言っておきたい。

その欠点を除いては、話のまとまり、キャラの書き分けができていていい作品だと思った。

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