うんち博士の「生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま」

生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま

生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま

まさか生痕化石の一般向けの本が日本語で出るとは.この本が出ていること自体が,日本人の強みといえるんじゃないのか.

生物の行動の痕跡の化石,それが生痕化石.著者は生痕化石を専門にしている若き研究者だ.この本は,生痕化石の研究の歴史からはじまり,代表的な生痕化石,日本での生痕化石の研究事例などが一般向けに記述されている.

私が最も親しみがある生痕化石は,オフィオモルファなのだが,皆さんにとっては足跡化石だろう.大きくて日常で見かける代表的な物が象の足跡化石,より人気のある足跡化石だと恐竜の足跡化石がある.本書の足跡化石で私が印象的に捉えたのはカブトガニの足跡化石である.死の行進という通名がついているとおり,死ぬ直前の最後の動きが地層に記録されている.

著者の専門は,うんち化石らしく,うんちの所では熱が入る.うんちの化石を切って内容物を確認するのはすべての化石に大して貴重だから大事にしようという指標のみで触れがちな私は忌避しがちだが,学問の進歩のためには致し方ない犠牲なのである.

始めと終わりに生痕化石への心理的な障壁を取り除くために,一ページまるまる使ったQ&Aがあり,それにより読者は生痕化石について簡単であるが重要な知識を得られる.私としてはその分内容を増やしてくれという感じだが,このあたりはひとそれぞれというところだろう.

著者は若手ということもあって自身の研究について分量は割かれていない.今後,さらなる経験を積んだ後,自分の熱中してきたことについて今回以上のボリュームで語ってくれることを期待したい.

この本を読んだところマテ茶が飲みたくなった.さて私も外国調査行くか.

参考リンク

泉 賢太郎(千葉大学教育学部) - Website of Kentaro Izumi