超大規模火山の正体は?「地球を突き動かす超巨大火山 新しい「地球学」入門」感想

LIPsと白亜紀海洋無酸素事変 【論文紹介】 - ミグストラノート

で紹介していた「地球を突き動かす超巨大火山 新しい「地球学」入門」を読んだので紹介をしておく。学会を上げて賞賛すべき最近のブルーバックス地球科学押しのうちの一冊である。

この本は前の記事でも紹介したとおりLIPについて書いたものである。LIPというのは、地球科学を学んでいる人でも全員知っているとは言いがたい用語であるが、その実を知るとなるほどあれかという感じだ。広義には巨大な火成岩体で陸上ならびに海底に分布しているというものであるが、この本ではよく使われる教義の方であるマフィックな大規模火成岩体といった感じで使われているようである。

冒頭は海底にあるLIPを掘削船で掘り進め、そこで分かったことを述べて始まる。そしてそれからは、デカン高原での陸上での調査に続き、LIP全体の知識へと入っていく。当然作中では、マグマができるメカニズムについても触れられている。概ね地球上でマグマが出来る場所は三箇所しかない。

プレートテクトニクスよりもマイナーではあるが、知っておいて損はないことだ。それは、ホットスポット、海嶺、沈み込み帯である。日本はこの内沈み込み帯に位置しているのでマグマができ、それが地上へと噴出すれば火山となるわけである。LIPと深く結びついているのは、ホットスポットである。ホットスポットはかつてLIPを創りだしたマグマの噴出源であり、それがLIPを創りだしたあとも脈々と残り続けて、水へに並ぶハワイといったホットスポット火山を作り出しているというのである。そのため、LIPの近くにはホットスポット火山列が存在することが多い。

そしてLIPはいわゆる大陸の離合集散と関連している。一つとなった巨大な大陸が割れるとき、時を同じくしてLIPも形成される。これの良い例として、紅海とアフリカ大地溝帯が挙げられている。

最後の方では日本とLIPとの関連性について軽く触れられている、海底下でできたLIPは海台とよばれるが、これらの寿命は海洋プレート上にいる時間と同義である。つまりできた場所からプレート運動によって移動していくので、いずれは沈み込み帯に潜り込む。そして消えてしまうと思いきや、巨大な玄武岩のかたまりであるLIPは沈み込めずに大陸へと付加され、それはいずれ陸地へと姿を現す。その代表例が御荷鉾緑色岩類であり、白亜紀の広域変成岩である三波川帯と密に接して現れている。そしてそれは北海道の空知ー蝦夷帯とも関連しているらしい。

またLIPと環境や生物絶滅との関連性についても最後のほうで書かれており、絶滅イベントとLIPの年代は一致しているように思える。

LIPは大規模な火成岩体であり、このような巨大な火山があったというのはなかなか信じがたいが、実際にあるのである。私は白亜紀を研究しているが、この時代にもLIPが何度も形成されている。そのうちどこかで私の研究とリンクする日が来るかもしれない。御荷鉾緑色岩類は研究対象として楽しそうだ。実はその近くの白亜系は調査したことがあったりするので気になっていた (論文は書いていない)。

最後に少し話は変わるが、この本ではプレートテクトニクスについてそこまで詳しく書いていないのでそれが良かったと思う。何故かと言うと、これは最近出たブルーバックスの地球科学の本で全体的に言えることなのだが、研究している本題を書くために初心者でもわかるように基礎事項を書いているといつのまにかページ数がそれに取られて、本題を書くスペースが少なくなるという問題点がある。かなり厄介な問題であり、普及書であるかぎり避けられない。これを避けるためには簡潔に書いたあと、詳しくは木村先生のプレートテクトニクスの本を読んでくださいとでも書く以外にないと思われる。

図解・プレートテクトニクス入門 (ブルーバックス)

図解・プレートテクトニクス入門 (ブルーバックス)

どこまで書いているかという具合を読みながら感じるためには、付加体についての説明、海洋プレート層序、ウィルソンサイクルあたりの用語を注視していれば良いかもしれない。

コンピューターや数学、統計とかで入門書ばっかりでる問題と似ている。地質屋である私からしたら研究の本題についてもう少し詳しく知りたいなと読んでて思った。