
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/12/08
- メディア: 文庫
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虐殺器官で有名な伊藤計劃のハーモニーを読む。
前半と後半に分かれていて、前半は3人の少女たち、霧慧 トァン・御冷 ミァハ・零下堂 キアンの物語。そして、後半。少女時代の終わり、3人で社会に影響を与えるために選んだ自殺で、キアンとトァンが生き残る。トァンが、生き残って大人になったキアンの目の前での突然の自殺の謎を追ううちに意外な人物に会うというもの。
健康監視システムの気持ち悪さとそれに立ち向かった少女たちの気持ちに共感できた。SFなのだけど、そこまでマニアックでなくて読みやすい。独自用語も分かるように説明している。
そして少女たち、そして成長した女性を主人公としているところが、親しみを覚える。そしてこの少女を主人公にしたことや、読みやすさや若干のパロディなんかは、ライトノベルに影響を受けたというのも分かる。それほど、読みやすくシンプルな文章で形式を重視すると僕は思い込んでいるSF作家らしくない。
とはいえ、ライトノベルにおいてありがちなお約束が徹底的に省かれている。軽妙な会話もないし、ハチャメチャな個性重視のキャラクターもいない。ありがちなイベントもない。ミァハがトァンの胸をもっと揉んで、百合百合になればよかったのに(妄言)。
ライトノベルの中からシンプルな文章や少女たちの物語という古典的な要素を選び、SF的な要素を加えたというのが適切だと思う。こういう小説は大好きだし、書きたい。
ただ、ストーリーはミステリ仕立ての、地味なのでライトノベルとしてでてたら絶対に売れないと思う。というか、ファンが付いた作家以外だとこれはライトノベルでは出せないと思う。MW文庫のほうが向いているだろう。
いい作品だと思う。感動して涙が止まらないという作品ではないけど、読み手を飽きさせない構成。評価されるのも分かる気がする。ちなみに、SFの良し悪しは分からないが、能をコントロールするという発想は好きだ。メジャーなのだろうが、それをうまく物語に組み込めるかどうかが作家としての力量であって、とても上手にできていたと感じた。