ライトノベルという言葉の使われ方が最近大きく変化している.それでなくとも,ラノベの定義には幾多の戦争が起き,妥協的にあなたの思うものがライトノベルですなんて文言が産まれたが,さらに混迷を深めている.
isaji mosshm (isaji)さんの貢献がこの記事には極めて大きいことを,遅ればせながら述べておく.
・1つ目として,Web小説の扱い.小説家になろう作品がライトノベルレーベルから書籍として出されるようになってから,この問題が表面化した.Web小説が書籍として出され,その書籍をライトノベルと呼ぶべきであるというのが一般的な考えであろうが,さらに枠を拡大して,Webで連載されている作品そのものにも,ライトノベルという名前が使われることが見られる.
書籍として出す際(メジャーデビューみたいな!)に,アマチュアの作家からプロの作家へと変わり,そしてプロの作家が出した作品がライトノベルとして呼ばれてきたと思うが,先ほどのWeb小説をライトノベルと呼ぶ事例では,アマチュアの作品もライトノベルとして認定される.
これはライトノベルという概念のオーバーフローを産むだろう.例えば,だれもライトノベルとして考えていなかったモモキュンソードもライトノベルと呼ぶことが公式側から求められている.しかし,WEBライトノベルというわけわからない造語がモモキュンソードの属性として挙げられていて,ライトノベルなのかWEB小説なのかこれまた中途半端なものである.
・2つ目として,1つ目と関連するがKDP,キンドル書籍である.Amazonのキンドル本では,アマチュアが作品を出すことができる.その中には,自らライトノベルを自称するものがある.これはどう扱えばいいのだろうか.
・3つ目として,イラストが表紙な作品をなんでもかんでもライトノベルと呼ぶことである.一般文庫,それも純粋なライトノベルを書いていない,つまり越境したわけでもない作家の作品をイラストが付いてラノベっぽい(これまた曖昧な概念だが)からとライトノベルとして扱って良いのだろうか.
・4つ目として,ライトノベルとして出された作品を別の一般文庫,単行本として出した場合,それはライトノベルとして呼ぶべきなのか. 最近出なおしたハヤカワ文庫の「θ(シータ) 11番ホームの妖精」(元は電撃文庫)はその中でも表紙がイラストであるしラノベとして受け取られやすい.「半分の月がのぼる空」などと例は多い.

【θ/シータ】 11番ホームの妖精: 鏡仕掛けの乙女たち (ハヤカワ文庫JA)
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まとめ
これはすべて,ライトノベルという定義が明確で無いから起きていることである.人によってはライトノベルの対象を幅広く取っている人もいれば,非常にミニマムに取っている人もいる.自分は出版社がラノベを自負すれば,ラノベと言っていいのではと思っていたが,WEBライトノベルなどというわけわからない造語が出てきた今では,その定義は適切で無いと思うようになってきた.電撃文庫がライトノベルを自称しないという例もある.
いずれは落ち着くだろうと思っていた新レーベル増大は一向に収まる気配を見せない.消えるレーベルの数よりも増えるレーベルのほうが多い.つい先日も双葉社から「モンスター文庫」が創刊された.かつて全員食えるであろう人数しかいなかったラノベ作家*1もレーベルの増加,出版点数の増加により専業では食えない作家が多い.その格差は広がるだろう.一方で,ラノベの売上は高止まりを見せる.*22013年はマイナスになる.
2014年はWEB小説の年となったが,2015年,そして将来はどうなるのか.目が離せない.
追記分
後から文章を加筆する,書き直すどうかは,私にとって難しい問題である.書きなおしても,既に過去版を見てしまった人には,届かないばかりか,後から見た人と意見の齟齬が生まれることになる.前の文章を残しておいたほうが変更前の記事が読めるので良いが,あまりにも多くを変更したり入れ替えた場合は極めて見難くなる.今回は文章を残したまま加筆することにした.
なんでもかんでもライトノベルとつけるのどうなのって話で、自分は文庫でイラストがあって、十代をターゲットにしているコテコテの小説がラノベだと考えていたけれど微妙なのが増えたからどうしようかと思ったので書いた。ほったからしていればいいじゃんとう意見もあるだろう。
— むのT.Okamura (@shintoumuno) 2014, 7月 22
それこそ自分の意見ではないけれど、ラノベスタイルRPGってなんやねんとかな。バズワードとしてラノベがここまで使われるようになるとは思ってなかった。アニメ化作品の急増、ヒット作の増加あたりが作用してそうだ。
— むのT.Okamura (@shintoumuno) 2014, 7月 22
これこないだ少し語った、モモキュンのWebライトノベルとかラノベスタイルRPGとか、KindleのKDPや電書専門レーベルがライトノベルカテゴリに含まれている事に文句言ってたのとほぼ同じ話なんだよな。このへんほんとになんなんだ。とくにkindleのは目に見えて実害があるのでアレ。
— isaji mosshm (@isaji) 2014, 7月 22
表紙や内容がライトノベルだけど一般文芸レーベルから出ているキャラノベがラノベか否かってのは、スニーカー以前の青帯の存在を思い出せば、ライトノベルとして扱っても問題ないと思える。
— isaji mosshm (@isaji) 2014, 7月 22
ハヤカワに関しては、元々ラノベ側にいたのに、いつの間にかヘンな権威付けされちゃってライトノベルとしてみられない人が出てきちゃって困るよね。みたいな感じ。で、こないだのハヤカワラノベオススメエントリを書いたんですけど、好評なようで、あの後滅茶苦茶アサマシエイトした。
— isaji mosshm (@isaji) 2014, 7月 22
早川がラノベというのがいまいち共感できないところ.そのロジックは当然分かっているのだけれど,あれラノベかあって感じ.世代の違いか.
ボカロ小説はラノベか?
ボーカロイドの曲があって,それを小説化するのが一般的だろう.じんさんのカゲロウデイズはいわゆるラノベレーベルから出ているので,問題なしにラノベに入れていいように思える.一方で,文庫でない作品や,単行本・ソフトカバーから文庫本(例えば初音ミクの消失)として再び出されたものもある.小説版は,曲製作者ではなくラノベ作家が書いている場合もある.
ファンが買ってくれるという構造は,WEB小説の書籍化に類似する.

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オタク第3世代の俺がボカロ小説についてひとこと言っておくか:Book News|ブックニュース
この記事というよりライターさんが好きすぎて,ぜひ読んで欲しい記事.
「ボカロ小説」はこうして生まれる 中高生を本屋に走らせる魅力、そして楽曲争奪戦へ (1/3) - ねとらぼ
小説化したVOCALOIDオリジナル曲の一覧とは (ショウセツカシタボーカロイドオリジナルキョクノイチランとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
キャラノベはラノベか?
キャラノベという言葉が.記事執筆時点では目に入っていたのに,しれっと無視してしまっていた.よくない.
『謎解きはディナーのあとで』の毒舌執事や『舟を編む』の辞書編集者など、際立つキャラクターが活躍するキャラクターノベル=「キャラノベ」が人気だ。「キャラノベ」がウケている背景や読者層をひもとき、人気作家の傾向分析から、今後の活躍が期待できる作家を紹介していこう。
「キャラノベ」人気が高まっている。「キャラノベ」とは、エンターテインメント小説のなかでも、読みやすい文体や言葉遣いで書かれ、舞台や人物がマンガ的に誇張されている作品のこと。
「謎解きはディナーのあとで」や「ビブリア古書堂の事件手帖」が例として挙げられている.「ビブリア古書堂の事件手帖」はMW文庫であり,電撃文庫と同じアスキーメディアワークスが出している.
キャラノベが,もしもラノベ風な一般小説のことを指すのだとしたら,かなりの作品があてはまるだろう.上記記事の一番最後のページの心霊探偵八雲は随分昔の発売されたのだけれど,amazonレビューではマンガを読んでいる感じと2005年の段階で指摘されていた.まさに事後適用するならば最適な作品であると思う.
- 5つ星のうち 4.0 面白い・・・が 2005/5/4
- By かごろもフーズ
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- 面白いですし、文章もテンポよく良いとは思いますが小説というより漫画を読んでる感じですね。すぐ読めます。よく言えば読みやすいですが、悪く言えば軽いです。でも内容、書き方ともに悪くないです。著作プロフィールにも書かれていますがまさに「誰にでも気軽に楽しめるエンターテイメント」だと思います。
- http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4835583442/
学問検索のススメ キャラノベって知ってる?:CAREER ACADEMY 進学ナビ 大学・短大サーチ10代の女性を主な読書にするラノベって,僕が知っているラノベではない.内容もほとんど丸写しだし,参考記事もないし大丈夫か.

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追記の時の感想
キャラノベがかなり面白いワードだと感じた.なんとなくラノベっぽいなマンガっぽいなという一般小説をかたっぱしからキャラノベと言える勇気!! ラノベに組み込まれるよりは,私はキャラノベとしてくくられる方が良いと思う.
参考リンク
- Amazon.co.jp: 野宮諒: Kindleストア
- 出版月報 2014年3月号「特集 2013年文庫本マーケットレポート」ライトノベル関連 - Matsuの日記
- 新潮文庫nex
- 双葉社が新レーベル『モンスター文庫』を創刊――初のラノベ刊行へ - ITmedia eBook USER
*1:とても昔の話ですよ.
*2:この世の全てはこともなし : ちょっと気になったラノベ・本ネタ ~全てがL(ラノベ)になる~ ご指摘ありがとうございます